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十三、神の責務
いろりが気になる文字を拾った時、低く澄んだ、よく通る声が響いた。
「黙れと言うておる」
その言葉が終わるや否や、狐雲に眼光を放たれた蛇珀と鷹海は動きを止めた。
——いや、動きを制されたのである。
それだけではない。声を発することも禁じられたのだ。
狐雲の力を持ってすれば、他の神の力を封じることなど造作もないのである。
数秒の後、解放された蛇珀は息を吐き、鷹海は狐雲に対し頭を下げた。
「も、申し訳ありません、狐雲様」
「よい。話を戻すぞ。いろり……その様子では私たち神々についても詳しく知らされていないようだな」
いろりは困ったように蛇珀を見た。
「……俺のことは話した」
「そなたに限らず、この世の理すべてを話し、理解させる必要があろう。それともその場凌ぎの軽い想いか?」
「そんなわけねえだろ! 俺は添い遂げると決めてる!!」
思わず出た本音に、いろりは驚き、蛇珀は気まずそうにやや肩をすくめた。
「……なんだよ、一生側に置いてくれって、言ってただろ……」
好きだとは言われたが、そこまでの言葉をもらっていなかったいろりは、感動のあまり声を失いながらただ照れる蛇珀の横顔を見上げていた。
——しかし、神と人の恋が、そうも簡単に成就するはずがない。
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