十三、神の責務

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 大地震が起きれば、当然人の命に関わる。よく考えればそんなことはすぐにわかったはずなのに、蛇珀との恋に夢中で気づこうとすらしなかった自身を、いろりは恥じた。  そんな彼女をさらに責めるように、鷹海が話を進めた。 「わしら神々の責務はこの国を安定させること。そのためには増えすぎた人口を調整する必要がある。定期的に天災が起きるのはそのためじゃ」  人口が過度に増加すると環境破壊や大気汚染、動物たちの殺処分が増える。  そうならないよう一定数を保つため三角頂は数年に一度、地震や台風、津波などで人の数を調整する。  あくまで“人”としての立場でなく、日本という国の平穏を守るために。  しかしそれは、“人”であるいろりにとって耐えられることだろうか?  これから先、地を司る神である蛇珀が起こした地震により、いろりの友人、親族が亡くなる危険があるというのに——。  それが、蛇珀がいろりを仙界に連れて来たがらなかった理由の一つであった。  自身の責務を知れば、いろりの心が離れるのではと不安だったのである。  いろりは聡いため、話を噛み砕かなくとも神々が伝えたいことを理解した。  少しだけ、目を瞑り静寂を守ると、いろりは再び視界を開いた。
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