十三、神の責務

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「…………ここで、私がかまいませんと申し上げるのは、今まで大事に育ててくれた母や、親しくしてくれる友人にあまりに不義でしょうか」  いろりは鷹海と、狐雲に視線を巡らせた。 「……それでも、私は蛇珀様を愛しています」  嘘偽りないいろりの言葉は、蛇珀だけでなく狐雲と鷹海の心も揺さぶった。   (このおなご、事態を軽んじておるわけではない。真摯に受け止めても尚、蛇珀を愛すると言うか——)  人は神のよい部分しか見ようとしない。  困った時の神頼み。都合のよい時だけ賽銭やお供えだけで頼られ、願いが達成されなければこの世に神も仏もないと離れていく。  手前勝手に創り上げられた“神様”の偶像に辟易したことのない神はいない。  しかしいろりは神に願いを託さず、本来の所業を知っても幻滅しなかった。  それは狐雲と鷹海が彼女を気に入る理由には十分であった。  しかし、いろりの目尻には涙が浮かんでいた。  それを見た蛇珀はぎょっとする。 「ど、どうした、いろり!?」 「……私、こんな悪い子ではとても蛇珀様のお嫁さんになんてなれませんよね……」 「——何言ってんだバカ! 悪いわけねえだろ!!」  蛇珀は思いきりいろりを抱きしめた。  迷いなく自身を選んでくれた彼女が、あまりに健気で愛おしく、周りの目などすっかり忘れていた。
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