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一、人間嫌い
人間の目には映ることなく、認識されることすらない山頂のはるか彼方、そのまたさらに奥。
下界よりずいぶん冷たく澄みきった空気の中、二人の神と呼ばれる存在がいた。
一人はやや段の高い柔らかな緑の苔の生えた土肌に座っており、もう一人はそれを少し見上げるように、平らな地面に胡座をかいていた。位の高い神が上座、低い神が下座に腰を据えるのがこの世界のならわしであった。
「どうした、今日も不機嫌であるな」
そう尋ねた上座の神は、見る者を圧倒する美貌の持ち主である。足元まである、流れるように繊細な琥珀色の髪と瞳、涼しげな目鼻立ち。人で例えるなら二十代後半といったところだろう。
うっかり神力を抑制せずに下界に降りようものなら、目にした人間の息の根を止めてしまうほどの神々しさを放つ上流神である。
一方、その神に問われた神は、まだ垢抜けぬ小僧くささが残っており、白銀色のふわりとした髪は腰までしかなく、大きな翡翠色の瞳をしていた。人で例えるなら十五、六歳といったところだ。
上座の神はすみれ色の、下座の神は若草色の狩衣を羽織り、白の袴という神職服に似た衣類を身に纏っていた。
「別に。本当に人間はくだらねえなって思ってただけだ」
吐き捨てるように言う幼なげな神に、上座の神は余裕を持った心で答える。
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