おとしもの。

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おとしもの。

 俺がまだ、高校生だった時の話だ。もうなんだかんだで二十年近く前の話になるだろうか。  今でこそまともに工場で働いてる俺だが、学生時代はそれはもうワルだったんだよな。ギャングチームに入って、それはもうブイブイ言わせてたっつーの?当時はこの近辺も走り屋のチームとかが乱立してて、半ば戦国時代かよってな感じだったんだよな。俺が所属してたチームも、まさにそんな乱立したチームのひとつだったわけ。  つっても、俺は髪染めてちょっとイキって煙草吸ってる程度の不良だったもんだから、何十代も続いてるようなデカいチームに入る度胸なんてあったはずもない。先輩が作った『レッド・スパイダーズ』ってチームの使い走りとして入れてもらってたってだけだ。なかなか厨二心を擽るイカした名前だろ?ちなみにその当時、地元で一番デカいチームだったのが『紅蓮侍』。そのまんま、ぐれんざむらい、って読む。数百人単位のデケェチームで、レッド・スパイダーズみたいな小さなチームはとにかく紅蓮侍の機嫌を損ねないようにびくびく動いてたわけだ。  紅蓮侍の怖いところは、とにかく頭張ってたヤツがクマグレだったってこと。  でもって、滅茶苦茶喧嘩が強かったってことだな。目をつけられたら何処にいても追いかけられて追い詰められて潰される。まるで蛇みたいに執念深い男ってんで有名だった。かと思えば、目につくところでヨソのチームが溜まってても平然とスルーしたり、機嫌がいいと挨拶してすることさえある。  奴等を敵に回さず、かつ自分達の縄張りはどうにかして確保したい。アタマもめんどーだが、紅蓮侍には優秀な幹部も揃ってる。そもそも兵隊の数が段違いだ。俺らはみたいなちょっとイキってるだけの小さな集団が、太刀打ちできる相手じゃなかったってわけだな。  さて、ここからが本題。  そんな紅蓮侍が、ある時急に勢力を拡大させる動きを見せた。いくつものライバルチームに喧嘩を売って、さらにチームをデカくしようとしてるっぽい動きだな。俺らは震え上がった。なんせ俺らが溜まり場にしてた廃工場が、まさにちょっと前に紅蓮侍に喧嘩売られて吸収されたチームの縄張りのすぐ近くだったからだ。  殴り込みかけられたらたまったもんじゃない。俺らは別にどこぞのチームと構えたいわけじゃなくて、とにかく小さなチームでほそぼそと気の合う仲間とダベったりちょっと悪い遊びをしたりしてたいってだけの集団だ。
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