おとしもの。

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 俺らのアタマだった先輩は、仕掛けられる前に撤退することを選んだ。いつも遊んでた廃工場を捨てて、別の溜まり場を見つけに行こうって話になったんだよな。  そんな時、仲間のAがこんなことを言い出した。 「M住宅って、空き家かやたら多いの知ってます?あそこのあたりに、根城に出来るような家とか空き地とかあるかもしれませんよ。駅から近いし、結構立地条件もいいと思うんスけど」  M住宅。俺もそのへんは、ちょっとだけ聞いたことがあった。確か昔は大きな団地になってたところだ。M団地。十棟くらいの建物がずらずらずらーっと並んでて、それこそ軽く千を越える数の家族が暮らしてたんじゃないかっていう。  でも、その団地で妙な事件が多発して。  早い話、不自然な事故とか自殺とかがたくさん起きて人がどんどん引っ越していってしまい、ゴーストタウンみたいになっちまったんで取り壊しになったんだとか。お祓いして綺麗に更地にして、今のM住宅地に生まれ変わったのが二十年以上前の話らしい。――残念ながらその住宅地も今は住んでる人間が極めて少ない状態。やっぱり不幸が続いてるらしく、地元の人間の中には“人が住んではいけない忌み地だったのではないか”なんてことを言い出す人もいる始末だ。 ――確かにあそこには、勝手に使っても叱られないような空き家がいっぱいありそうだけど。……やばくね?M団地だぞ?Aのやつ、あそこの曰く知らないのかよ?  正直俺は気が進まなかった、が。びびってると思われるのが嫌で黙ってた。まあ、不良ぶってイキってるようなヤツが、妙な意地張ってただけなんだけどな。  実は俺らのアタマ張ってた先輩も、あんま怖い話は得意じゃないって知ってた。でもやっぱり、俺と同じでビビリだと思われたくなかったんだろうな。 「そうだな、あそこならいいかもしんねぇ。他のチームが縄張りにしてるって話も聞かないしな。行ってみるか」  アタマがそう言ったら、俺らもついていかないわけにはいかない。  十数人くらいでぞろぞろとM住宅地に突入することになった。止せばいいのになんでわざわざ夜に行ったかね、俺らときたら。   M住宅は、駅前の大通りの一本裏の道、そこをちょっと進んだところにあるような場所にある。駅はすぐそこだし、街灯が立ってないわけでもない。それなのに妙に暗くて、入った瞬間から俺は“早く帰りてえ”って気持ちでいっぱいになっていた。
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