おとしもの。

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 暗い気持ちを吹き飛ばしたくなって、みんなでわいわい騒いだり音痴な歌を歌いながら歩いたりしてると、Aが一つの家の前で立ち止まったんだよな。 「先輩!こことかどうっすか?硝子とか割れてるけど、結構綺麗っぽいですよ!」  確かに、その一軒家は他の空き家と比べると随分綺麗だった。壁に穴が開いてるわけでもないし、瓦屋根が崩れそうになってるでもない。硝子が割れててちよっと危なそうなことを覗けば、まだまだ新築と言われても信じてしまいそうなくらいなものだった。空き家だとすぐわかったのは、表札が取り外されていることと、立ち入り禁止のテープが張ってあったからだ。  なんだか殺人事件が起きた現場みたいだ――と思ってしまってぞっとした。警察が使っているものとは違うが、入り口にはまるで封印でもするかのように赤いテープが張り巡らされてたからだ。そのガムテープくらいの太いテープに、立ち入り禁止と書いてあるのでる。  なんだかいかにもヤバそうな家なのに、大丈夫だろうか。  俺のそんな心配をよそに、Aは面白がってテープを潜って中に入ってしまう。 「そういや、紅蓮侍のNo.3のニシモトだっけ?あいつ行方不明になんだってさー。最近連絡がとれなくて、紅蓮侍の奴等が探し回ってるらしいぜ。こういうところにこっそり侵入して、神隠しに遭ったとかだだたら面白いよな!」 「やめろよ、縁起でもない……!」 「はははっ!冗談だって、冗談!」  そのニシモトとやらは、Aの中学時代の先輩だった。Aは中学時代彼のパシリをさせられており、相当恨んでいたことを俺は知っている。いなくなったと聞いて清々した気持ちなのだろうが、だからといって人の不幸を喜ぶような言動は感心できなかった。  Aが入ってしまうと、俺や先輩たちも後を追わないわけにはいかない。玄関は鍵がかかっていたが、庭に面したリビングの窓硝子が割れていて中に入るのは簡単だった。 「おじゃましまーす!」  妙に明るい声で言うAと、そんなAのテンションに若干引いてる俺ら。ぞろぞろとコワモテのヤンキーが空き家に入っていく図は、なかなかシュールだったことだろう。
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