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国連が発表した「自己実現度ランキング」で、我が国は先進国中、最下位になってしまった。
なんと国民の三人に一人が、「自己実現できていない」と感じているという。
そこで付け焼き刃だが、「かみさま公社」が設立されることになった。
もちろん、「かみさま公社」には正式名称がある。しかし、「神様」の代わりに願いを叶ええてくれる機関ということで、俗称のほうが浸透してしまっている。
「かみさま公社」のおかげで、国民は誰でも一生に一度、好きな願いを叶えてもらえるようになった。
ただし、「一生のお願い」を申請できるのは成人してからだ。
そりゃそうだ。子どもの頃のお願い――「新作のゲームが欲しい」だとか「犬が飼いたい」だとかで、一回きりの権利を棒に振るのは、勿体ないにもほどがある。
「ユウ君も、『かみさま』に『お願い』したらいいじゃない」
こう言うのは、幼馴染みのカナだ。以前はフリーター仲間だったのだが、最近は色々な人からの貢ぎ物で、生活に困らなくなったらしい。……恐ろしい。
「そうかなぁ」
「だってさ、上京して四年でしょ。それで芽が出ないんでしょ」
「まぁ……」
俺は、カシスオレンジの氷を意味もなくカラカラと掻き回した。
「でもさ、もう一年はオッケーってお袋たちには言われてるんだ。佳作までは獲れたし、あとちょっと……」
「その佳作も、一昨年の話じゃん? プチ成功体験しちゃうと、なかなか夢から覚めないんだよねー。あるある」
「プチって言うな、プチって」
「ごめん、ごめん」と笑いながら、カルーアミルクをグビグビと飲むカナ。
昔からスレンダーでスタイルが良かったが、ずっと顔にコンプレックスがあると言っていた。俺にはよく分からないが、本人曰く「メイクで誤魔化せないレベル」だったらしい。
カナは多分、「かみさま公社」に「一生のお願い」をして、タダで高額な美容整形をしてもらった。
今では、親父さんにもお袋さんにも似ておらず、清純派女優のYやSに似ている。
「……でもさ、もうちょっと頑張ってみようかな」
「とりあえず、今のやり方を続けてみるってこと? あたしは、やらずに後悔より、やって後悔だと思うなぁ」
「うーん、ズバズバ言うな」
「考えてみなよ。世の中には、どうしようか悩んでいるうちに、事故や病気のせいで『一生のお願い』ができなかった人もいるんだよ。慎重になりすぎるのは良くないよ」
「それは、そうだけど」
確かに、今のカナを見てると説得力がある。カナは以前よりも生き生きして見えた。
兄妹が多くて、経済的にも色々と我慢していたカナ。
数ヶ月前には、読者モデルにならないかと、とある雑誌の編集者から路上スカウトまで受けたと言う。
「カナはすごいな、将来は芸能人じゃん」
「えー、芸能人にはならないよ」
「そうなの?」
「『ちょっと可愛い一般人』くらいがちょうどいいの。分相応ってやつね」
「ふーん……そういうもんかな」
「それに、これ以上有名になるとキツいしね」
「え、何が?」
「アヒージョきたよ。うわー、美味しそう。あ、写真撮らなきゃ」
きゃっきゃと騒ぐカナ。俺から見れば、カナの人生は順風満帆だ。
巷には、様々な情報が溢れている。「最も後悔しない『一生のお願い』」、「『一生のお願い』のメリット、デメリット」、「『一生のお願い』10のモデルケース:天国と地獄」……。
でも結局、「一生のお願い」で人生が好転するか、しないかはその人次第だ。その場の運や、タイミングだってある。
「一生のお願い」も、宝くじに当たるのも、何も変わらない……。変に意識する必要はないんだ。
自分にそう言い聞かせながら、俺はその週末、最寄りの「かみさま公社」に足を運んでいた。
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