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刺々しく咲いた夕陽は針のような光で笹田を射るように照していた。
笹田は殺人事件のあった現場付近まで来ていた。偶然にも場所が笹田の住んでいる所の近所だった。
ネットニュースで見た殺人事件は特に笹田の興味をひくものではなかった。ただいたずらに空いた時間の空白を埋めれればそれでよかった。
結局赤本は彼女がお店に来ないことに不安を抱いた。電話にも出なかった事で気が気じゃなくなり「本当に申し訳ない。これで好きなもの食べて」と謝りながら一万円を笹田に渡してお店を後にした。
突然の状況に笹田は困惑しながらも、「わかりました」とうなずいた。
お腹は空いていた。だが料理を頼む気にはなれなかった。
現場付近は規制線が張り巡らされていて、その中のには制服をきた見張りやくの警官と、いかにもといったスーツ姿の刑事らしき人が眉間に縦皴をよせて話し合っている。
顔を青くして泣きながら刑事の質問に答えてるいる女性は恐らく遺族だろう。
格好を見るとセーターにジーンズといったラフな格好をしていた。笹田はそれを見て、あの女性は専業主婦で殺されたのは夫なのだろうと勝手な想像を膨らませていた。
笹田は自分が事件を起こした時の母の反応と泣いてる女性を重ね合わせ、胸が痛くなった。視線をずらすと女性のすぐ側にはまだあどけない表情の高校生の女の子が立っている。なにが起きたのかわからないといった様子だった。
野次馬がどんどん集まって。ライブ会場のように周囲を囲んでいった。
「殺人事件だって、物騒ね」
群衆に埋もれた笹田の近くで、そう声が聞こえた。
声の方へ視線を向けると、キツめのパーマをあてた女性が周囲に向けてそう話していた。
「可哀想よね。殺された人、銀行員だったみたいよ。きっとお金があるって思われたのね。お子さんだってまだ学生なのに、これから学費とかはどうするのかしら」
ニュースかなにかで仕入れたと思われる情報を周囲に向けて改めて発信している。
周りの野次馬はそれら全てが真実であるかのように頷き、その女性の話しに耳を傾けていた。
笹田はその光景を横目で見て、くだらない、と目線を反らした。そのまま反転して、人混みをかき分けその場を離れた。
同情に価値なんてない。あの日から特にそう思うようになった。
笹田は自分の起こした事件を知って連絡してきた連中を思い出しながら奥歯を噛み締めた。
捕まったと知った途端、連絡帳にいたことすら忘れていたような連中が、一番早く連絡をしてきた。
「大丈夫か?」だの「何があった?」だの、中には「俺にできることがあるなら力になる」と言ってくる者さえいた。
心配を装ってはいるが、言葉の節々に好奇心と嬉々としたものを感じ気分が悪くなる。
まるで詐欺師だ。電話にでた笹田はそう思た。
電話越しに呆れを通りこした笑みがこぼれる。
思ってもいない事をすらすらと話せるそいつらは、事件を起こした俺なんかよりもよっぽどたちの悪い人種だ。
他人の不幸は蜜の味か、良くできた言葉だ。とつくづく思い知らされた。
そして気づくと電話を切っていた。
これからどうしようかと悩んでいると都合よく携帯が震えた。
都合がいいのかどうかは、確認してみないとわからないが、流れを変えるきっかけになればと笹田はポケットから携帯を取り出した。
液晶には知らない番号が表示されていた。
「はい……」と怪しんで電話にでる。
ここ数日、母親意外から電話がかかってきた記憶がないぶん、少しばかり緊張する。
「あっ、笹田君? 」
聞き覚えのある男の声だった。
「え? あ、あのすみません番……」
番号がわからないと言おうとしが、戸惑いを浮かべた。元上司や知り合いだった場合印象が悪い。とっさにそう思ったが、相手には全て伝わっていた。
「あー、ごめん、ごめん。番号わからないよな。赤本だけど、わかる?」
なぜ赤本さんが? と複雑な感情になる。
笹田にとって赤本は単なる不動産屋で、仲良くする必要性は感じてなかった。
赤本の食事について行ったのは、暇潰しと食事代が浮くくらいの軽い気持ちからで、親交を深めたいとは考えいない。
困ったというような仕草で頭をかきながら、要件をきいた。
「あ、先程はどうも。ごちそうさまでした。どうしたんですか?」
数秒の妙な間の後で、赤本の僅かに震えたこえで答えた。
「俺と入れ替わって欲しい」
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