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 春子は胸パッドを取りに教室を出て落し物コーナーへ行った。その間に僕はランドセルを教室後方のロッカーに収めて席に戻った。その後、春子が戻って来て席に着くなり、「ああ、これで安心」と言った。胸パッドを付けたらしく胸が気持ち膨らんでいる。 「何、安心してんだよ」 「えっ」 「君、ばればれでも付けていられるわけ?おまけに安心できるわけ?」 「そうよ。何か悪い?」 「そうやって誤魔化すわけ?」 「そうよ。私は女の子なんだから。大人の女の人だって胸パッドしたり化粧したりして誤魔化すじゃない。私はまだ小学生だから化粧は出来ないけど、胸パッドは見えないからしても良いのよ」 「なるほど、理屈としては合っている。しかし、だからと言って安心してる場合じゃないぜ」 「何で?」 「何でって僕が君の胸パッドのことを大島に喋ったらどうなると思う?」 「えっ、ああ、それだけは止めて!」大島とは春子の好きな男子なのだ。 「だったら僕の願いを叶えてくれ」 「えっ、願い?」 「ああ、君の胸を触らせてくれ」 「えー!何言ってんの!」 「いいじゃんか。服着てる上に胸パッドしてんだからそれが緩衝材になって直接揉まれることにはならないし、直接乳首を触られることにもならないじゃないか。これこそ理屈として合ってるだろ」 「あんた!小学生の癖に何言ってんのよ!」と春子は叫ぶが早いか僕の頬に手跡がついたんじゃないかと思う程の強烈なびんたをお見舞いした。 「むっちゃいってえ!!」と僕は絶叫した。 「そんなことが許されると思ってんの!」  僕は頬を摩りつつ、「い、いや、た、確かに許されるべきことじゃないだろうねえ。し、しかし、何だねえ、こういう場合、女子はびんたをしても許されるというのは、と言うか、許す自分がよく分かんないんだけど、この痛い目に遭わせたことも含めて僕に頭下げた方が身のためだよ」 「ふふ、そうね」と春子は僕の痛がる様子を見て笑った後、「ごめんなさい。こうして頭下げてるんだからお願い!大島君だけには言わないで!」とお願いした。 「大島に言わなくたって他の奴に言ったら噂が噂を呼んで大島の耳にも入るよ」 「あっ、そうね。じゃあ、誰にも言わないで!お願い!」と手を合わせる。 「そんじゃあねえ、僕に向かって吉原君って大島君よりずっとずっとカッコいいって言ってくれ。そしたら内緒にしてあげるよ」 「えー」と春子は小さく叫んだが、「吉原君って大島君よりずっとずっとカッコいい!」と直ぐにすんなりと言った。「確かに。アハハ!」と僕は態と笑ってみせた。朝の挨拶同様、空虚で気持ちが入っていない上、柴犬だと思って薄笑いしているから女はいざとなれば、口先で何とでも言えるし、上辺を装って平気で誤魔化すと思った。「ああ、しかし、それにしても何で胸パッドが落ちたんだろうね」 「私、いつどうやって落としたか、さっぱり分かんないの。不思議だわ」 「それは不思議かもしれないけど、小学校の落し物コーナーに胸パッドが置いてあること自体が不思議でならなかったよ」 「ふふ、それもそうだけど、小学生で男子なのに胸パッドを見て胸パッドだと分かる吉原君も不思議だわ」 「確かに。ハッハッハ!」と僕は四度目の大笑いをするのだった。
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