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半分とな。
蓮次郎は思うたが、もちろん口には出さぬ。
世襲に頼らず家老まで昇り詰められた、偉大なる藍右衛門様がどうにかすると仰っているのだ。大船に乗ったつもりで、気を楽にしておろうと思うておった矢先に、こんなことになってしもうた。
殿様が行ってしまわれたのを確認して、2人は夕闇に紛れ、コソ泥のような忍び足で城の端にある土蔵へと忍び込んだ。
「これじゃこれじゃ」
藍右衛門はそう言うて、座布団ほどの大きさの、煎餅のように丸くぺったんこに編まれた藁の編み物を手に取った。
「これは、徳川様のご難題の?」
蓮次郎は、本日昼間に大荷物を提げて徳島城を訪れた、大阪城からの使者一行を思い出した。
なんでも、大阪は堺にて、この煎餅のような座布団のようなものを使う予定であった計画が流れてしまい、今となっては使い道がないので、丸ごと阿波藩で買い取れとのことである。
徳川将軍直属の譜代大名からの命令とあらば、外様大名である蜂須賀様は首を縦に振るより他に道はない。
それにしても一万も二万も、下手をすればそれ以上やもしれぬ数の藁細工を、阿波藩にどうしろと言うのだろう。
「これ、そちこそ言葉が過ぎるぞ。我々はゴミを押し付けられたのではない。徳川様からありがたき品々を頂戴したのじゃ。…… くそっ」
大阪城のせいで藍右衛門は、ただでさえ忙しい家老の業務に加え、この煎餅のような藁細工をいかに捌くかという難題に取りかからねばならなくなってしもうた。
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