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兄と、妹
雪のちらつく街を少年は走り続けた。
悴んでとっくに感覚を失った手。ひび割れたコンクリート壁に挟まれた暗い路地通り抜けて、施設への帰り道を急ぐ。
—アイツ、一人で泣いてないかな?
いた!
孤児院の広場で他の子供と上手く馴染めずに今日も隅っこで本を読んでる。
「裕貞、帰ったぞ!」
「お兄ちゃん、おかえり。」
読んでいた本をパタンと閉じて顔を上げた妹の顔は真っ白だ。
「外でじっとして本ばっかり読んでたら寒いだろ。」
「お兄ちゃんこそどうしたのさ。そんなに急いで。」
「ほら、安のおばちゃんが饅頭くれたんだ。食えよ。」
ポケットから出した饅頭はほのかに暖かい。
「お兄ちゃんも食べなよ。」
「僕は1コ食べたからいいんだ。」
妹に腹一杯甘い菓子を食べさせたくて小さな嘘をついた。
「お兄ちゃん、嘘言っちゃダメ。半分こしよ。」
「さっさと食べないと饅頭が固くなるぞ。」
寒空の下、幼い兄妹は小さな手で饅頭を分け合った。
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