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そんな日がどのくらい続いただろう。
――ママ、祐樹くんはどうしたの?
西の空が紫色にたそがれる頃、散らかりっぱなしの部屋の中で、ぼくはうつろな目で虚空を見ているママのそばに伏せた。
――サッカーの合宿?
それなら僕は我慢するよ。祐樹くんはサッカー選手になるのが夢だもの。
――でもママ、どうしてそんなに哀しそうな顔をしているの?
だらんと下げたママの手をそっと舐めた。ママの指が力なくぼくの頭を撫でた。
「シロ、あなたの散歩、してあげられなくてごめんね。ごはんはパパが世話してくれてるわよね。……我慢してね、もう少し、祐樹が……元気になるまで」
ぼくは驚いて顔をあげた。
祐樹くんは今、元気じゃないの? どういうこと?
ママは泣きながら、ひとりごとを言うみたいに話してくれた。
祐樹くんが学校で倒れて病院に運ばれたこと、緊急手術をしたけれど意識は戻らないこと。お医者さんの力ではどうすることもできないこと。
――そんな! そんなことって!
ぼくは部屋の中を、あっちに、こっちに、動いた。
――祐樹くんに会いに行かなくちゃ!
「シロ、だめよ。だめ。外には出せないの、ごめんね」
ベランダに体当たりするぼくをママが抱きしめる。涙がぼくの背中にぽたんぽたんと落ちてきた。
「祐樹も闘ってるの。シロ、我慢してちょうだい」
「わん、わんっ……、わん! わんっ!」
ぼくは吠えた。窓の外、暮れかかる遠い空に向かって吠えた。
「うぅー、うぅー、わんわんっわん、わん」
狂ったように、けたたましく吠え立てた。
助けて。
祐樹くんを助けて。助けてください。
お願いします。
神様!
お願い、祐樹くんを助けてください!
そのとき、頭の上の上の、上の方で声が聞こえたんだ。それは神様の声だった。
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