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乗る人も降りる人も少ない無人の駅でぼくはうろうろした。
……どうしてこんなところにいるんだろう、ぼくはどこから来たんだろう、名前はなんだっけ?
考えても考えても思い出せなかった。
ある日、長い棒を手にした作業服の男がふたり、物々しい様子でぼくに近づいてきた。
ぼくは捕まった。
縄や棒に行き場をふさがれてあっという間に檻の中に入れられた。中は狭くて嫌な臭いがした。動物たちの残したたくさんの恐怖心が、あちこちに染みついている。
――これから大変なことが起こるんだぞ。
臭いが声になって、四方八方から耳打ちしてくるみたいだった。
本能的にからだが縮む。
こわいよこわいよこわいよ。誰か助けて!
「待ちな」
そのとき、後ろから声がした。
ぼくを入れた檻が近くに停めてあった車に押し込められたときだった。
「なにも連れていくことはない」
その声は、いつもぼくにごはんをくれるおばあさんだった。曲がった腰に両手を当てておっちおっちと歩いてくる。
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