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「かわいそうに、こんなに怖がって」
おばあさんは檻の中のぼくに身を屈めた。
「そうはいっても、野良犬は怖いんだよ」
ぼくの口元にへんな器具を強引に被せようとしている男が、おばあさんに向かって言う。もうひとりの男も加勢する。
「ここに放置してどうするの。こんな危険な野良犬を」
おばあさんはシワシワの顔でにいっと笑った。
「なあに、危険なもんかあ。子供が前を通れば伏せて道をあけてやるし、ゴミ置き場も荒らさない。誰かにここに連れてこられて捨てられたんだろうに、心細くても無駄吠えもしねえ。おらがエサを置いたときだけ、お礼を言うみたく小さく一回吠えるだけ。利口ないい犬だ。だから役場で処分するっつうならおらが飼う」
「そんなこといたって……」
「名前ももう決めた。シロだ」
おばあさんの固い意志にふたりの男は顔を見合わせた。こそこそとなにか話している。
「上の者と相談してからまた来るよ、おばあちゃん」
「とりあえず“決まり”だから一旦連れて行かないと」
一方的に言って、男たちは面倒を避けるみたいに車に乗り込んだ。エンジンが掛かる。車が動き出す。おばあさんが心配そうにぼくを見ている。だからぼくは、狭い檻の中でおばあさんに少しでも近づこうともがき、そして高らかに「わん!」と鳴いた。
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