またね

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 ――ありがとう。おばあさん。ありがとう。  おばあさんが、「おらが飼う」と言ってくれたとき、ぼくは神様との約束を思い出すことができた。祐樹くんを助けるために、ぼくは今ここにいて、おばあさんのおかげでひとつめの“優しさ”を手に入れることができたことを。  そのことをおばあさんに伝えようと、ぼくは必死に吠えた。  ありがとう。やさしいおばあさん、ありがとう。ごはんをくれたこともありがとう。ぼくのことは心配ないからね。それから……  だけど声は少しずつ掠れていった。  走り出した車の中でぼくのからだは神様の力によってゆっくりと消えていく。そうして気がついたときには次の場所に舞い降りて、また――――    あれからいくつもの季節が過ぎた。    いろんなことがあったんだ。  蹴られたり石をぶつけられたり、ひどい言葉も悪戯もたくさん受けた。だけどそれと同じ数だけ助けてもらったんだ。いじめる人間から守ってくれる人もいたし、飼ってはあげられない、ごめんね、と泣いてくれた人もいた。ごはんをくれた人も、遊んでくれた人も、撫でてくれた人もいっぱいいた。  そうして11の“優しさ”を集めて、ぼくはここへ来た。  ひとつを集めるごとに神様は記憶を封じてぼくを別の場所に移す。  神様との約束を思い出せるのは“お別れ”の間際、集めた“優しさ”の全部を思い出すことができるのは最後の冒険のあと。  12の記憶をすべて思い出せるここが、だからぼくの終着点だ。  たくさんの宝物をいっぱい胸に抱えて、いっぱいの優しさに包まれて、ぼくは今、神様の声を待っている。    すべてが、終わったから。
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