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「なあ、おまえをシロと呼ぶけど嫌じゃないか? 理由はわからないけど俺はおまえを見ていたら、この名前しかない! って思ったんだ。おまえはどう思う?」
ぼくは矢部さんに「わん」とひとこえ吠える。
それでいいよ、と答えたつもりだ。
だってぼくはこの冒険に出てからもずっとシロって呼ばれてきたんだよ。
理由は、ぼくにもよく分からないや。
だけどぼくを飼ってくれるという人たちには、目には見えない繋がりがあるんだと思う。そういうのを人間の世界では『縁』って呼ぶんでしょう?
「ほんとうにおまえは愛嬌のあるかわいい顔をしているぞ。かわいいだけじゃなくて、なんていうか強くて、優しい目をしているんだ」
ぼくをじっとみつめて、矢部さんはてへへ、と笑った。
「かわいいんだぞ、おまえは」
「わん」
照れながら、吠える。
みんながぼくを不細工だって言うのに、そんな風に言ってくれてありがとうね。
矢部さん、忘れないよ。
ずっと忘れないよ。
だってぼくはもう“忘れなくていい”から、矢部さんのこと、これから先ずっと覚えていられるんだ。
「シロ、寒くないか? 今日だけの我慢だからな」
ぼくのからだを擦るように撫でる矢部さんにぼくは寄り添って“ありがとう”を伝える。
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