またね

2/16
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
   恐る恐る伸びてきた手に頭を低くする。 「腹減ってるだろう」  ひとしきり、ぼくを撫でてから男は袋をまさぐって菓子パンを取り出した。  ――わお! ごはんだ!  ぼくは嬉しくて嬉しくて、一生懸命食べる。パンの下にお皿の代わりに敷いてくれたビニールまで噛み千切ってしまうくらいに。 「おいおい、それは食えないぞ」  男はぼくの緩めた顎からビニールを引き抜いた。 「そんなに腹が減ってるのか。よし、また後で持ってきてやるからな」 「わん」 「矢部さん、本当にエサやってんすかあ?」  うしろから声がした。  ぼくにごはんをくれた人は矢部さんというらしい。矢部さんは立ち上がって振り返った。 「よう、篠田。おまえも来たか」  こっちの男は篠田さんか。矢部さんより少し年下みたいだった。髪の毛が茶色い。 「こいつペロリと食った」 「そりゃそうでしょうよ」  言いながらぼくの前に屈んだ。すっと手が伸びてきた。おもわず首を竦める。でも篠田さんは慣れた手つきでぼくの頭を撫で回した。もしかしたら家で犬を飼っているのかもしれない。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!