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恐る恐る伸びてきた手に頭を低くする。
「腹減ってるだろう」
ひとしきり、ぼくを撫でてから男は袋をまさぐって菓子パンを取り出した。
――わお! ごはんだ!
ぼくは嬉しくて嬉しくて、一生懸命食べる。パンの下にお皿の代わりに敷いてくれたビニールまで噛み千切ってしまうくらいに。
「おいおい、それは食えないぞ」
男はぼくの緩めた顎からビニールを引き抜いた。
「そんなに腹が減ってるのか。よし、また後で持ってきてやるからな」
「わん」
「矢部さん、本当にエサやってんすかあ?」
うしろから声がした。
ぼくにごはんをくれた人は矢部さんというらしい。矢部さんは立ち上がって振り返った。
「よう、篠田。おまえも来たか」
こっちの男は篠田さんか。矢部さんより少し年下みたいだった。髪の毛が茶色い。
「こいつペロリと食った」
「そりゃそうでしょうよ」
言いながらぼくの前に屈んだ。すっと手が伸びてきた。おもわず首を竦める。でも篠田さんは慣れた手つきでぼくの頭を撫で回した。もしかしたら家で犬を飼っているのかもしれない。
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