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約束どおり、矢部さんは昼休みにお弁当箱を抱えてやってきた。
「さあ。食え、食え」
ごはんとおかずが半分ずつ残っている。
ぼくはまた夢中になって食べた。
むしゃむしゃ、食べた。
「うまいか、そうか。腹減ってたもんな」
食べ終えたぼくの身体を矢部さんは大きく撫でる。
「よしよし」
お礼に、矢部さんのてのひらに耳を擦りつけた。
「ずっとひとりぼっちだったのか?」
「くぅーん」
鼻先で泣く。
ぼくはひとりぼっちだったんだろうか。分からない。
「おまえはどこから来たんだ?」
わしゃわしゃと両手で挟んで頭を撫でる矢部さん。
そのリズムに心地良く目を閉じる。
『ここ』に来るまでのことは思い出せない。気がついたらぼくはこの空き地にいた。それまでどこにいたのか、なにも思い出せない。
そっと、矢部さんの大きくて煙草のにおいがする指先をぺろりと舐めた。
「わひゃ、くすぐったいぞ、おい」
撫でてくれたからお返しだよ。ぺろりぺろり。これは友情の証なんだ。
「これはメシじゃないぞ」
わかってるってば。
「そうだ。おまえをシロと呼ぼう」
「わん!」
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