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呼ばれた瞬間、また記憶の箱がかたかたかた、と揺れた。
なんだかほっとする、懐かしい呼び名だ。もしかしたらぼくは以前もそんな風に呼ばれていたのかな。
「――おーい、矢部さん、犬!」
篠田さんがやってきた。手にはボウルのようなものを持っている。
「篠田、水持ってきてくれたのか?」
「はあ」
当たり前だと言わんばかりに、篠田さんはぼくの目の前にたっぷりと水が入ったボウルを置いた。
そうそう、ごはんは美味しかったけど喉も乾いてたんだ。篠田さん、いいとこあるじゃん。
ぼくは半分まで水を飲んで顔をあげ、篠田さんに向かって「わん」とひとつ吠えた。
「はいよ」
篠田さんが答える。ぼくの吠え方で“お礼”の挨拶だって分かったみたいだ。
「かわいいよなあ、シロ」
「こいつシロっていうんすか?」
「うん。さっき思いついた」
「安直っす。俺なら、食いしん坊でなんでもぺロッと食うからペロスケにしますけどね」
矢部さんが声をあげて笑う。
――失礼な
ぼくは篠田さんを恨めしげに見上げた。
――仕方ないじゃないか、だってすっごくお腹が減ってたんだから
「連れてっちゃおうかなあ」
ぼくを撫でながら矢部さんが言った。
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