14人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくのほんとうの名前も、シロだ。
山口祐樹くんのおうちで暮らしていた。
ぼくはおかあさんもおとうさんもきょうだいも知らない。だから祐樹くんがお母さんでお父さんでお兄ちゃんで、友達だった。
祐樹くんのおうちに来るまでは公園のすみっこで暮らしていたんだ。小さなぼくは闘い方も仲間を作る方法もしらなくて、みんなに蹴られたり噛みつかれたり吠えたてられたりした。毎日血だらけで傷だらけで疲れ果てていた。
――もういいや
そう思ってからだを伏せ目を閉じたとき、ぼくを抱き上げてくれた男の子がいた。それが祐樹くんだ。
弱くてやせっぽちのぼくにごはんを食べさせてくれて、動物の病院へ連れて行ってくれた。
その日からぼくは祐樹くんとずっと一緒なんだ。
祐樹くんのベッドの足元で眠って、起きたら一緒に階段を下りる。
ダイニングテーブルの下で祐樹くんの「いただきます!」の声と一緒にごはんを食べて、慌しい朝の風景のなか祐樹くんを見送る。
祐樹くんが学校から帰ってきたら散歩に行く。晴れの日も雨の日も、坂道や階段や川べりを駆けてたっぷり遊んで帰ってくる。
夕ご飯のあとは、祐樹くんが勉強する机のそばでひとやすみ。
でもある日から祐樹くんは家に帰ってこなくなった。ママはときどき戻ってくるけど荷物を持ってすぐに出て行く。パパは仕事が忙しくて毎日夜遅くに帰ってきて、それからコンビニで買ってきたお弁当をぼくのお皿にわけてくれる。
最初のコメントを投稿しよう!