またね

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 ぼくは野良犬。  だから名前はない。                              白いコスモスが揺れる空き地のはじっこは、夏の間に伸びた雑草がちょうどぼくを隠す高さまであって誰にも気づいてもらえない。だからぼくは空き地の真ん中まで出て踊ってみたり、道路にちょっとだけ前足を出してきょろきょろする。そしたらようやく空き地に足音がやってきた。一方通行の道路を挟んだ、向かいの会社に勤める人だ。   「おーい、犬。犬。犬ぅ!」  いくらなんでも雑な呼び方だ。  でもひさしぶりの人間なので許してあげることにする。  男の手にはスーパーの袋。これは待ちに待ったごはんか!   ぼくは鼻先を遠くにのばしてクンクン、と嗅ぐ。  勝手に尻尾が揺れる。 「なんだ、エサが分かるのか」  男がぎこちなくそばにやってきた。     ぼくは首をぶるん、と下げた。    ――はじめまして  人間みたいに上手じゃないけど挨拶はできるよ。
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