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「おねえさん……。おなか、いたい。」
夜の街の隅で、一緒に座り込んでいた幼い子供がしがみついてきて、菜月は、うん、とうなずきながら、その小さな身体に両腕をまわした。
身体が温まるように、過去の楽しかった思い出を脳裏にリピートした。だんだん温まってくる、菜月の身体。
菜月は尋ねた。
「少し、良くなった?」
幼子はうなずいた。
おなかが痛い理由は知らない。
学校帰りにあてもなく歩いて駅に戻ると、すでに夜の賑わいが始まっており、その片隅で、この子を見つけた。
化粧もしていない、普段着姿の菜月を、すがるような目で見ていた。
菜月はあたりまえのようにそばに寄った。
「お姉さん、喉渇いてるんだけど、コンビニの場所知らない?」
幼子は「しってる。」と言って菜月に片手を伸ばしてきた。
菜月はその手を握って、幼子について歩き出した。
「ここ。」
コンビニの入り口までちゃんと案内して、幼子は言った。そして、菜月の手をぎゅっと握った。心細げだった。
「ありがとう。お礼に、なんか買ってあげるよ。なか入ろ。」
今度は菜月が手を引いて歩いた。
パンのコーナーの前で、幼子がパンをふり向いた。菜月は言った。
「パン、おいしいよね。」
「うん。」
「どれが一番おいしい?」
幼子は背伸びして、カレーパンを指さした。
「すごーい! お姉さんもカレーパン好きだよ! お揃いで買っちゃおうか。」
幼子は笑顔でうなずいた。
そのあと、飲み物も買って店外に出ると、幼子が菜月の手を引いて、歩き出した。
着いたのは、元の場所。
もしかしたら誰かに、ここで待っているように言われているのかもしれない。菜月はそう思った。
二人でささやかなご飯を食べた。
幼子は並んで座る菜月に身を寄せていた。
「おいしいね!」
うれしそうに言った幼子に、菜月も、
「うん、おいしい。カレーパン最高!」
と笑い返した。
それから長いこと、二人で座っていた。
お父さんやお母さんのことは、尋ねなかった。こんなに小さな子を夜ほったらかしなんて、どうせろくな親じゃない。
菜月は幼稚園の頃に教わった指遊びを幼子に教えて、一緒に遊んだ。
声を掛けてくる者はいない。
めずらしくなんかないからだろう。
そのうちに幼子が言ったのだ。
おなかが痛い、と。
菜月は家政科の学校に通っており、幼子は辛いことをうまく伝えられないときに、そのセリフを言うのだと知っていた。
だから、両腕をまわした。
それくらいしか、できなかった。
そして幼子は、菜月の「少し良くなった?」の問いにうなずき、甘えるように顔をすりつけて、じっとしていた。
菜月は、まるで赤ん坊に乳をふくませる母親のように、幼子を抱え続けた。
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