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その後、昼、夜とがむしゃらに書きまくっている背中はひどく殺気立っていて、声をかけてはいけないような気がした。
それでも食事は摂って欲しいので、俺は一口サイズのおにぎりをいくつか作って仕事場のテーブルに置いてみることにした。
時間を開けて覗いてみると、何個か減っているようだったので俺はすごくホッとした。
まるで猛獣の檻を覗いているみたいだ。
コンビニでゼリー飲料を買ってきて置いてみたりもしたけれど、あまり手をつけていないみたいだったので俺でも出来そうなレシピを調べてエネルギーになりそうなものを一口おにぎりに入れてみたりした。
そんな風にして3日が過ぎた。
ご飯は少しだけど食べてくれている。
だけど……あの人、寝て無くない?
4日目の朝、相変わらず机にかじりついている北川秋の顔を覗き込むと酷い隈ができていた。
たまらず、声をかける。
「北川さん、少し、寝た方が良くないですか。」
……。
北川秋はなにも言わない。
「少しベッドで寝た方が良いですよ。俺、起こしますから。」
「……怖いんだ。」
「え?」
「今書くのをやめたら、もう二度と書けなくなる気がして怖いんだよ。」
よく見ると、北川秋の切れ長の綺麗な目に涙が滲んでいる。
「寝たいんだ。でも、怖くて眠れない。」
いつも完璧な男がこんな風に泣くなんて。
気がつくと俺は北川秋を抱きしめていた。
「大丈夫、書けますよ。だから、一回眠りましょう。」
「うん。」
北川秋は俺にしがみついて小さく頷いた。
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