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「これ、すっごく美味しいですね!」 「打ち合わせに行ったカフェでね、ここのチーズケーキは絶対美味しいって、担当さんがお勧めしてくれたんだ。」 担当さん、という単語に胸がギュッとなる。 「ところで…アラタは、彼女とかいないの?」 「え?」 「いや、ここへ来てからだいぶ経つけど、ずっと世話になってしまっているだろう?恋人とデートとかできてないんじゃないかなって。」 「彼女とかは、いない、です。」 「そうなんだ。」 「……はい。」 「そうだ、誰か紹介しようか。俺はあまり知り合いが多くないけれど、出版社の人とかに声をかけたらきっと…」 「どうして」 「ん?」 「どうして北川さんに紹介なんてしてもらわないといけないんですか。俺、そういうのいらないです。」 泣きそうだ。 「そうか。わかったよ。」 それからはただ黙ってケーキを食べた。あんなに美味しかった筈なのに、もうなにも味がしなかった。
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