1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだったね。行こうか。じゃあ、また明日ね」
「あ、待って」
彼女がわたしを呼び止めた。
「なぁに?」
「追試終わったら、一緒に帰ろ」
この時、ななみの纏う空気がよどむのを感じた。わたしは出来るだけ、穏便にすませたい派だったので、彼女にこう言った。
「あー、いつ終わるか分からないし、かなり遅くなるかもしれないよ?」
「ううん。待ってる」
彼女の言葉に、ななみの空気が重たくなってくる。わたしは彼女に「今日は、ひとりで帰ってくれるかな? 明日一緒に帰ろ?」。
これ以上、ななみの機嫌を損ねさせたくない。
しかし、彼女はわたしのお願いを聞き入れてはくれなかった。
「待ってるよ。いつも一緒に帰ってたんだから、いいでしょ? それに今冬だし、夜暗いから一緒に帰ろ」
彼女の優しさに心がズキズキと痛み出す。
何も言えなくなったわたしに、ななみが前に出た。
「いつ終わるか分からないから、先に帰ってて。あたしがユナと一緒にいるから、大丈夫でしょ? いこう、ユナ」
ななみはわたしの腕を引いて、英語室へと向かった。
わたしはななみに引かれるまま、首だけを後ろに向けた。ひとり取り残された彼女は、わたしたちの後ろをただ、見つめていた。
英語室の手前に着くと、ななみから解放された。
「ねぇ、ユナ」
「……何?」
「あの子と帰るのやめにしよ?」
「どうして?」
「いや、だって……。なんかやなんだもん。それに、あの子“おかしな子”じゃん」
今思えば、とんでもない理由だったかもしれない。当時のわたしは、そんな中身のない理由に流されてさしまったのだ。
彼女が“おかしい子”=みんなのイメージ。
ななみがそれを言う前から知っていたことだ。小学校からずっと一緒だったんだ。
周りの生徒たちは、彼女のことをよく思っていないことも。彼女にはわたし以外、友だちと呼べる人がいないことも。
それでも、わたしは彼女の側にいた。
たとえ、周りにどう思われようとも、わたしは彼女の側に……いたかった。
中学生のわたしの心は弱くて、ななみの言うことを信用してしまった。
わたしはーーー彼女を裏切ったのだ。
ーー1時間前ーー
追試験が始まり、追試験の合格ラインまで何回もテストを受けさせられた。
ほかに受けいた生徒たちも、少しずつ英語室から出て行く。そして、わたしもテストの合格ラインにいき、教室を出た。
一応、教室の前でななみが終わるのを待った。
時刻は、18時を過ぎていた。
待っている間、彼女は帰ったのだろうか? それとも、まだいるだろうか? そう考えていると、ななみが教室から出てきた。
最初のコメントを投稿しよう!