贖罪

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「そうだったね。行こうか。じゃあ、また明日ね」 「あ、待って」 彼女がわたしを呼び止めた。 「なぁに?」 「追試終わったら、一緒に帰ろ」 この時、ななみの纏う空気がよどむのを感じた。わたしは出来るだけ、穏便にすませたい派だったので、彼女にこう言った。 「あー、いつ終わるか分からないし、かなり遅くなるかもしれないよ?」 「ううん。待ってる」 彼女の言葉に、ななみの空気が重たくなってくる。わたしは彼女に「今日は、ひとりで帰ってくれるかな? 明日一緒に帰ろ?」。 これ以上、ななみの機嫌を損ねさせたくない。 しかし、彼女はわたしのお願いを聞き入れてはくれなかった。 「待ってるよ。いつも一緒に帰ってたんだから、いいでしょ? それに今冬だし、夜暗いから一緒に帰ろ」 彼女の優しさに心がズキズキと痛み出す。 何も言えなくなったわたしに、ななみが前に出た。 「いつ終わるか分からないから、先に帰ってて。あたしがユナと一緒にいるから、大丈夫でしょ? いこう、ユナ」 ななみはわたしの腕を引いて、英語室へと向かった。 わたしはななみに引かれるまま、首だけを後ろに向けた。ひとり取り残された彼女は、わたしたちの後ろをただ、見つめていた。 英語室の手前に着くと、ななみから解放された。 「ねぇ、ユナ」 「……何?」 「あの子と帰るのやめにしよ?」 「どうして?」 「いや、だって……。なんかやなんだもん。それに、あの子“おかしな子”じゃん」 今思えば、とんでもない理由だったかもしれない。当時のわたしは、そんな中身のない理由に流されてさしまったのだ。 彼女が“おかしい子”=みんなのイメージ。 ななみがそれを言う前から知っていたことだ。小学校からずっと一緒だったんだ。 周りの生徒たちは、彼女のことをよく思っていないことも。彼女にはわたし以外、友だちと呼べる人がいないことも。 それでも、わたしは彼女の側にいた。 たとえ、周りにどう思われようとも、わたしは彼女の側に……いたかった。 中学生のわたしの心は弱くて、ななみの言うことを信用してしまった。 わたしはーーー彼女を裏切ったのだ。 ーー1時間前ーー 追試験が始まり、追試験の合格ラインまで何回もテストを受けさせられた。 ほかに受けいた生徒たちも、少しずつ英語室から出て行く。そして、わたしもテストの合格ラインにいき、教室を出た。 一応、教室の前でななみが終わるのを待った。 時刻は、18時を過ぎていた。 待っている間、彼女は帰ったのだろうか? それとも、まだいるだろうか? そう考えていると、ななみが教室から出てきた。
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