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「やっ、ちょっと、だめっ」
「ん? 大丈夫」
抱きすくめられ身動きの取れないところで、強引に唇を塞がれる。
「あっ、んっ、んん……」
だめって言ったけど、全然拒めてない私。それどころか煽っちゃってる。
ぎゅううっと私の体を抱え込んでくる男の腕はすごい力で、痛いほどではないのにしっかり押さえつけられているせいで逃げ出せない。
(男の人って、力がすごいんだな……)
感心する私には、本気で逃げる気もない。
それでも拒むべき場面、というのはわかっている。
だってここはオフィスの片隅にある倉庫の中で、誰も入って来ない保証なんてないんだから。
頭上にある小窓はなんのためについているかもわからないような高さにある。でも、もしもそこから覗かれたら——と思うスリルは、イケナイことをしている私を昂らせた。
「んっ、ねえ、だめ」
抑えた声でする、形だけの拒絶。
密着させられた体を押し返そうと、腕に力を入れてみる。
案の定それは無駄な抵抗だったようで、私を閉じ込める腕の力は全く弱まらない。
けれど、そうやって私を閉じ込めようとしてくれる人がいる事実に、溺れている。
小窓から射す明かりだけでは薄暗い倉庫の低い天井で、パチパチと切れそうな蛍光灯が明滅した。
(蛍光灯も、変えなきゃ)
私たちの関係は、ただの上司と部下。それだけだったひと月前なら、こんなところでふたりがスリルを味わうこともなかったのに。
なんでこんなことになったんだろ……。
そう思うのに、渇望されて抗えない。
私たちは、夜の中ですら許されないのに。
その夜にもまだ早い。
上司と部下でいなければならない、昼と夜の間で——。
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