52Hzのジオラマ

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 上司に渡されたメモ入りの地図を広げながら防波堤沿いに歩くこと20分。  町の外れ、港の端の端に到着する。小さな離島へ渡る為に建設されたらしい自動車用の橋のたもとに到着した。青い塗装は潮風でところどころ剥げていて錆が浮かんでいる。長い間修理されていないようだった。  ここには会議机の献花台が設置されていた。新しいものから枯れているものまで、無造作に積まれている。犠牲者について個人的なことは興味がないが、いずれも20代の男性だったという。一緒に置かれている缶コーヒーと煙草は恐らく故人の好みだろう。  献花台の前で両手を合わせて頭を下げる。  目を閉じると、不意に生臭さが鼻についた。異常な臭いに顔を上げて辺りを見渡す。  今度は、びた、びた、という濡れた足音が耳に届く。人間のものにしては水気が多すぎた。  嗅覚と聴覚に届く違和感。  次は、視覚だった。自分の目を疑うしかなかった。眉を顰めて、左の方を見遣る。  50mほど左に、人間ではありえないシルエットを確認したのだ。それは何回瞬きしても消えない。やがて、『なにか』を視認した途端に背筋が粟立つ。
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