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——立っていたのは、俺と同じくらいの背丈をした、半魚人。
的確に表現するとしたら上半身が丸みを帯びた魚で、下半身には人間の足が2本伸びて地面に接している。
鱗の色は薄い金色。体の右側は僅かな日の出の光を受けてぎらぎらと輝いていた。
ぎょろりと丸くて黒い目が俺を捕らえる。
口がぱっくりと開く。人間を丸呑みできそうなくらい大きな口のなかに、小さなぎざぎざの歯が並んでいた。
そのとき直感が告げた。
——喰われる。
何が人魚伝説だ。何が連続殺人事件だ。
半魚人がその正体だったと、犯人だったということか?
妖怪が人間を喰らっていたなんて誰が信じる?
今この場にいる俺だってこの目を疑っているというのに。
違う。
今はそんなことを悠長に考えている場合じゃない。
震える両足を拳で強打する。
ありったけの大声を振り絞って叫ぶと、奴が次の行動を起こす前に、全力で逃げだした。
どこまでどんな速さで追いかけてくるかは分からない。しかし海から離れればなんとかなるかもしれない。
必死に走った。気づけば涙が頬を伝っていた。ひたすら恐怖でしかなかった。
「おい、どうした?」
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