52Hzのジオラマ

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 明らかに俺へ向けた声に、全身が針で刺されたように震えた。いつの間にか傍らで軽トラックが並走していた。昨日の男が窓から顔を出して話しかけてきていた。  ……人間だ。俺は息切れしながらもようやく立ち止まることができた。 「昨日の兄ちゃんじゃないか。泣きながら走るだなんて何かあったのか?」 * 「あらあらまぁまぁ。昨日の観光客さんじゃないの」  無理やり軽トラックに乗せられて、俺は男の家まで連れてこられた。  背の低い生け垣に囲まれた、庭のやたら広い長屋だ。庭には屋根つきの駐車スペースと洗濯の干し竿と、手入れされた低木が並んでいる。  縁側で女が果実を拭いては笊の上に干していた。 「泣きながら走っていたから連れてきた。茶でも出してやれ」 「はいはーい」 「座れ」  女は立ちあがると軽やかに室内へ入ってく。  俺は促されるままに縁側に腰かけた。涙の跡はすっかり乾いていたが、気力は戻ってこない。男の強引さになすがままにされていた。 「はい、どうぞ」  女が盆に載せてぬるめの煎茶を出してくれたので一気に飲み干す。染み渡るとはまさにこのことか。ようやく生きている心地がした。
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