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「いい名じゃないか。俺は御蔵一郎。こっちは妻の、はな。歳はいくつだ」
「21」
「21にしては疲れた顔してるな! で、在所はどこだ」
「ざいしょ……?」
「田舎のことよ。清瀬さんはどちらからいらしたの?」
「東京」
「生まれも育ちも東京ってやつか」
会話という行為がそもそも苦手なので、俺は黙り込む。
「親御さんは元気か?」
会うのが二回目の人間によくもずけずけと訊いてくるものだ。苛立ちが募ってきて俺は感情的に吐き出す。
「知らない。物心ついたときから施設で生活していた」
大体の人間はそう答えると、遠慮することが美学だとでも思っているのか立ち入ってくることはなかった。そのとき必ず同情しているような顔つきになるのが腹立たしかったけれど、この答えは俺にとっては分厚い壁を造る為に欠かせなかった。
「施設だぁ? ひどい話だな! お前さん、親のないまま、よく立派に成人まで育ったもんだ。愛想と礼儀はないけどな」
「あなたも遠慮がないけどね」
がはは、と御蔵夫が笑う。横で御蔵妻が溜息をつくのが聞こえた。
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