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「清瀬さん、ごめんなさいね。悪い人じゃないんだけれど、ちょっとばかり他人を慮るのが苦手なのよ。……それで、今はおひとりで暮らされているの?」
「18になったら施設を出なければいけなかったから」
……忘れていたのに思い出してしまう。
ぎりぎり東京の隅で安い風呂なしのアパートを借りて、アルバイトをして食いつないでいた。金はなく、当然のように友人もおらず、将来に希望なんてある筈もなかった。20歳になったら死のうと思っていた。
しかしそれを御蔵夫妻に話す義務はない。
御蔵妻は俺の無言を返答と受け取ったようだった。
「そうなの。これまで、がんばってきたわね」
さらに答える必要もない。俺は、両の拳を強く握りしめた。
空は相変わらず曇っているし、眼下の海も灰色に淀んでいる。
なんて辛気くさい町なんだ。まるで、俺みたいだ。
*
中腹の少し開けた場所で軽トラックを駐めて、御蔵夫が降りるように促してきた。ここからはさらに道路が細くなるので徒歩でしか進めないのだという。
底のすり減ったスニーカーに大小様々な砂利の感触が伝わってくる。
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