52Hzのジオラマ

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 鳴かず飛ばずで腐りかけていた俺を見かねた副編集長が、世間を賑わせている連続殺人事件の取材を任せてくれたのは昨夜遅くのことだった。否、もしかしたら、それでヒットを飛ばせなければ俺は解雇されるのかもしれない。それくらい今の自分の状況が崖っぷちにあるということくらいは理解している。  昭和の時代に『人魚伝説』という胡散臭いネタにより一世を風靡した田舎の漁師町で、不気味な殺人事件が起きている。  ただでさえ限界集落で若者が激減しているというのに、その若者が猟奇的な死を遂げたのだ。ひと月のうちに、3人も。  一人目は、右腕がなくなっていた。  二人目は、左腕が消えていた。  三人目は、頭部が失われていた。  世間がそんなセンセーショナルな事件を放っておく筈はない。  そもそも『人魚伝説』とは何だったのか。  数百年前、町に偶然打ち上げられた人魚。当時の住人たちは不老不死を求めて人魚を食べたという言い伝えがあった。
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