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夢も希望もない俺は、施設を追い出されて、20歳になったら死のうと思っていた。安い時給で働かされる毎日。唯一の楽しみは、SNSで炎上しているなにかを見つけては糾弾することだった。俺が正義だと、主張することだった。
20歳になる前日のこと。
俺は鞄にスマートフォンとホームセンターで買ったばかりの、店で最も刃渡りの長かった包丁だけを入れて、家を出た。預金は当然のようになかったし、所持金はもう3桁を切っていた。
とにかく人間がたくさんいる場所へ行こうと思った。そして日付の変わった瞬間に、20歳になった瞬間に、その場にいる人間を巻き添えにして死のうと思った。最期に世の中の理不尽を糾弾することが俺の使命だと信じて疑わなかった。
そして、5分前。
最後にスマートフォンを確認して、SNSに遺書を残そうとしたときだった。一通のメッセージが届いていた。
『あなたの文章に興味があります。当出版社で、まずはアルバイトとして働いてみませんか』
驚きのあまりスマートフォンを落としそうになった。思わず、その場に両膝をついた。
生まれて初めて誰かに必要としてもらえたと思ったのだ。
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