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両親に棄てられ、社会に罵られ、見放され、居場所なんてどこにもなかったこの俺のことを。
血液が沸騰したかのように全身が熱くなった。震える手で返信を打ち、送信ボタンを押すと同時に、俺は20歳を迎えた。
しかし現実は容赦なかった。
出版社でも、碌に結果を残せず、罵倒される日々。
結局のところ俺は社会にとって不要な存在なのだと再認識させられるばかりだった。
今回が最後のチャンスなのは間違いない。
一方で結果を残せないのだとしたら、人魚に殺されるのも悪くはないだろう。
誰にも祝福されずに生まれて、意味を持たずに生きてきたのだから、最期くらいは惜しまれたいのだ。それくらいの願いは許されるだろう。
そんなことばかりを考えていたが、半魚人は現れなかった。
*
民宿に戻ったのはすっかり日の暮れた頃だった。
受付にいた若女将に会釈して部屋に戻ると、木を蒸したような、独特な臭いの蚊取り線香が焚かれていた。昨日の浴衣の香りをもっと強くしたようなものなので、虫除けなのだろう。
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