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若女将が飛び退いたのと同時に金縛りが解けて、俺は急いで飛び起きると部屋の明かりをつける。
一糸まとわぬ姿の若女将が、俺のことを睨みつけていた。
視線の先は俺のシャツの胸ポケットだ。光が漏れている。つまみ出すと、人魚の鱗といわれた欠片が入っていた。まだ鱗からは微かな光が放たれている。
「どうやってそれを手に入れたのです……!」
答える必要はない。
俺は部屋の脇に置いていた鞄を手に取ると、動揺している若女将を見ないようにして部屋から飛び出た。
民宿から逃げるように走り出す。
だんだん状況が飲み込めてくる。物心ついてから泣いたことなんてなかったのに、またもや涙が頬を伝う。必死に拭いながら走る。走る。俺は、この町へ来てから全速力で走ってばかりだ。
気がつくと真っ暗な港へ辿り着いていた。消えかけの街路灯がかろうじて視界を助けてくれる。
胃から不快感がせり上がってきて、立ち止まると俺は昼間に食べたものを海へすべて吐き出していた。
俺を狙っていた人魚の欠片を体内に有する者、というのは、若女将だったということか。
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