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もし鱗がなかったらどうなっていたか分からないと考えると、肌が粟立つ。寒気がする。再び吐いたが、もう胃酸しか出てこなかった。
民宿へはもう戻れない。
今晩は、野宿で夜を明かすしかなかった。
曇天の町は相変わらず、水平線を曖昧にしている。夜なので闇はいっそう濃くなっていて、引きずり込まれてもおかしくなかった。
波の打つ音が時々聞こえてくるくらいで、夜の海は、ほんとうに静かだ。
ちくしょう。どうして俺ばかりがこんな目に遭わなければならないんだ。
「半魚人、いるなら出てこいよ!」
声さえも海に吸いこまれていくようだ。それで届くなら、上等だ。
「人間を殺して復讐したいなら、ここに恰好の奴がいるぞ!」
ざぱ、……ん。
呼応したのかは分からないが、何かが水面に浮き上がってきた。
半魚人が、魚の部分だけを水面から出して、こちらを見ているのが分かった。
感情の乏しそうな丸い目だ。
足が見えなければ巨大な魚だ。大きさにはおののくが最初に比べれば恐怖心は少ない。
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