52Hzのジオラマ

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 もし鱗がなかったらどうなっていたか分からないと考えると、肌が粟立つ。寒気がする。再び吐いたが、もう胃酸しか出てこなかった。  民宿へはもう戻れない。  今晩は、野宿で夜を明かすしかなかった。  曇天の町は相変わらず、水平線を曖昧にしている。夜なので闇はいっそう濃くなっていて、引きずり込まれてもおかしくなかった。  波の打つ音が時々聞こえてくるくらいで、夜の海は、ほんとうに静かだ。  ちくしょう。どうして俺ばかりがこんな目に遭わなければならないんだ。 「半魚人、いるなら出てこいよ!」  声さえも海に吸いこまれていくようだ。それで届くなら、上等だ。 「人間を殺して復讐したいなら、ここに恰好の奴がいるぞ!」  ざぱ、……ん。  呼応したのかは分からないが、何かが水面に浮き上がってきた。  半魚人が、魚の部分だけを水面から出して、こちらを見ているのが分かった。  感情の乏しそうな丸い目だ。  足が見えなければ巨大な魚だ。大きさにはおののくが最初に比べれば恐怖心は少ない。
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