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勿論そんなものはただの作り話に決まっている。しかし町おこしの為に、『人魚が打ち上げられた港』には銅像がつくられたというし、当時は土産品として人魚をイメージした饅頭だの煎餅だのをこしらえたらしい。ただ、それらはたいした観光産業にはならず結局風化したようだ。
そんな人魚の血肉を口にした者の末裔だから、今となって報いを受けたのだとか、はたまた消失した部分は高値で闇取引されて富豪の口に入ったのだとか、よくもそんなことが思いつくのだろうという奇天烈な見出しで、人々はますます令和の現代においてこの町に注目した。
くだらないことだ。
人魚なんて存在するものか。必ず人間の犯人がいる。俺はそいつを見つけ出して、一世一代のスクープをしてやる。
そんなことを考えていたらようやく目的の駅に到着した。
運賃を正しく箱に収めて俺は寂れたホームに降り立つ。
空を見上げると雲は重たく分厚い。
駅は町の高台にあるようで、眼下には民家、港、そして灰色の海が広がっていた。舟が数隻、漁をしている様子が見える。
まとわりつく空気はどこか潮っぽくべたついていた。
なんとも陰気な雰囲気の町だ。
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