52Hzのジオラマ

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 すると喉の奥から、ぎりぎりと、金属どうしをこすり合わせるような音がした。やがてそれはまとまっていき、なんとか言葉として聴き取れる音になる。 『にんぎょが、ころされたと、いうのは、ほんとう、なのか』 「……? 本当だろう。そうやって説明されたし、ミイラのようなものも見たし、なによりこれが人魚から剥がした鱗だと言われた」  自分でもおかしなことだとは思ったが、半魚人に対してまるで人間と話すかのように答えていた。一睡もしていないから思考回路が働いていないのだろう。  再び御蔵妻から渡された鱗を提示すると半魚人はじっと鱗を見つめてきた。 『しがいは、まだ、そんざいしているのか』 「あぁ。なんなら、写真を撮ってこようか。その代わりに、ひとつ頼みを聞いてほしい」  立ちあがると、半魚人と目線が合う。  もう畏れは抱かなかった。 「俺を喰ってほしい。俺のことを、殺してくれないか」 *  俺は神社への坂道をひとりで登っていた。
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