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疲弊した両足を鼓舞しながら拝殿の後ろへと回り込む。本殿の扉の鍵を探るとそれは簡単に見つかり、躊躇なく俺は扉を引いた。
罰当たりな行為でもかまわない。どうせもうすぐ死ぬのだから。それでもしっかりと頭を下げて、靴を脱いでから本殿へ足を踏み入れた。
一見すると炭の塊のような御神体に近づいて目を凝らす。人魚のように……見えなくは、ない。
目を見開いたままの顔は少女のようだったし、上半身は裸のようだったし、下半身は魚だった。ただ、下半身は半分くらいのところで喪われていた。
たしかに人魚のミイラだと確認すると、鳥肌が立った。
御蔵妻の言っていたことが正しいとすれば江戸時代に人間に殺された人魚。人間に愛されて、憎まれて、殺され、最後には喰われた人魚だ。
ひとつ引っかかることがある。
半魚人は、人魚が死んだと聞いて驚いているように見えた。
御蔵妻の推理は間違っていたのだろうか。
それでもこの姿を見れば人間への復讐心も生まれるだろう。
俺はカメラを構えて、数枚写真を撮った。きちんと写っていることを確認して、再び頭を下げ、扉を閉める。鍵も元の場所に戻した。
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