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「とても美しい光景だったわ。そのときは、明朝に人魚が打ち上げられていたの。もうすぐ、数百年ぶりに星が降ると占いが告げている。今回は人魚の干し肉を振る舞うだなんて宮司が言っているけれど、わたしはもう食べたいとは思わない。このまま老いて、死にたい」
御蔵妻は笑った。
同じ『死にたい』という気持ちを持っていても、俺と御蔵妻は違う。だからどうして笑ったのか、俺には分からなかった。
*
しばらくして体を動かせるようになると俺は港へと向かった。
電車もないし今夜は泊まっていくといいと御蔵妻は言ったが、世話になるつもりはない。俺はこれから半魚人に喰われるのだ。
曇りの黄昏時。
海も風も、凪いでいる。
大きく深呼吸をしてから呼びかけた。
「写真を撮ってきたぞ」
俺の声を認識するようになったのか、半魚人はすぐに現れた。陸に上がると水滴をしたたらせながら近づいてくる。
恐怖心がなくなったとはいえ生臭さには堪えられない。鼻をつまみながら、俺はカメラのディスプレイを見せた。
画面には人魚のミイラが写っている。
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