52Hzのジオラマ

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『わたしの、にくしみは、まとはずれだった。あのこが、いないなら、もう、いい』 「おい! 待てよ!」  しかし制止も虚しく、半魚人は海に沈んでいってしまった。 * 「おかえりなさい」 「よく来たな! さあ、あがれ」  結局行くあてのないまま、御蔵家に泊まらせてもらうことになってしまった。居間では御蔵夫が豪快に焼酎を飲んで赤ら顔になっている。 「お風呂、入る? 客人には最初に入ってもらっているから」  他人の家の風呂なんて入りたくもなかったが、汗と潮風にまみれている現状で断ることはできなかった。まだ、最初に入れたからましだった。  やはり胃がはちきれるくらいの夕食を食べさせられ、客間に敷かれた布団に横になる頃には、1日の疲労が全身に広がっていた。比喩ではないくらい、鉛のように体が重たい。  なんとかスマートフォンの充電をする。未読メッセージは出版社からの、進捗状況の確認のみだった。  布団のなかでブラウザを開いて、『人魚伝説 曇天町』と入力する。
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