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口のなかでプチトマトが弾けた。
食卓でも感じたが、まるで自分の知っているそれではないみたいだった。脇役としてしか認識したことのないプチトマトが主役のように存在感を放っていた。
「生きるということは、育てるということだ。それは必ずしも子どもじゃなくてもいい。こうやって、野菜なんかでもいいな。魚の養殖も楽しい。船が直ったら海に連れてってやるから楽しみにしておけよ。まぁ、とにかくなんでもいいんだ」
いいことを言っているように聞こえるが、御蔵夫は豪快に笑いながら鼻の穴に指を突っ込んでほじっていた。
その手で収穫されたものは食べたくないと、正直思った。
戻ってくると朝食にはたくさんの野菜と、大きな目玉焼きと、麦ご飯と、具だくさんの味噌汁が並んでいた。またもや食べきれない量を無理やり食べさせられた。御蔵妻はずっと微笑んでいて、御蔵夫は米粒を飛ばしながらひたすらうるさかった。
*
3件の死亡現場に俺は花を手向けた。
……叶わぬことだが、俺が代わりに喰われればよかったのだ。
この町に来て、すっかり忘れていた『死にたい』という気持ちが蘇ってしまっていた。
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