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海水を吸ってどんどん重たくなっていく服は錘のようだ。口から空気が漏れて大きな泡が出ると同時に、目が勝手に開いた。
光が射さない海は色を持たない。
視界も、ない筈だった。
——金色の光が胸元から溢れる。人魚の鱗が、作用している。
目の前に同じ光の色をした長い髪の少女がいた。
大きくて蒼い瞳で俺を見つめている。
美しい少女だと、思った。
下着すら纏っておらず裸のようだったが、僅かに輪郭が光ってぼやけている。足は見えない。つまり、鱗が造りあげた幻覚だ。
人魚の幻を、俺は見ているのだ。
……徐々に意識が遠のいていく。半魚人に喰われなくても、なにかの餌くらいにはなってくれるだろうか……。
*
視界が見慣れた灰色だった所為で、俺はまたもや死ねなかったのだと気づく。腕を空へ伸ばして、手を握ったり開いたりした。感覚が全身に伝わってくる。
やはり、生きている。
仰向きに寝かされているようだった。傍らに立つ半魚人から水滴が滴り落ちている。こいつの仕業だということは一目瞭然だ。
「……どうして助けた」
『おまえもくるしめばいい。くるしんでいきろ』
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