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海水がしょっぱいということを、初めて体感した。起き上がって頬を乱暴に拭う。
胸が張り裂けそうに痛かった。
こんなことも初めてだ。きっと、海に飛びこんだ所為だ。ちくしょう、と独りごちる。
*
結局、行く当てもなく、御蔵家へと戻ってきてしまった。
すると御蔵妻と誰かが軒先で話していた。反射的に生け垣へ身を隠す。物陰から聞き耳を立てて、その選択肢は正解だと感じた。
相手は民宿の若女将だった。
「ごめんなさいね。もしかしたらいるかなと思っただけなんです」
「東京からのお客さまのこと? 一度それらしき青年は見かけたけれど、貴女から連絡が来る前だったから分からないわ」
俺を捜しているのだとすぐに察する。
体が硬直する。ここにいることを決して気づかれてはいけない。
「もう何日も経っているし、東京へ戻ったんじゃない? 諦めなさいな」
「彼、人魚の鱗を持っていたんですの」
「……」
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