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「大丈夫じゃ、ない。俺には、どこにも行く場所なんて、ない」
勝手に言葉が出てくる。出てきて、しまう。
「物心ついたときからどんな場所にいても居心地が悪かったんだ。どこにいても自分の居場所がなかった。周りがどんなに優しくしてくれても信じることができなかった。施設のひとたちだって大事にしてくれていたのは分かっていたんだ。なのに、自分はここにいてはいけない、早く出て行かなきゃという気持ちに責め立てられて生きてきた。だから、20歳になったら死のうと思っていた……。俺はただの死に損ないなんだ。生きていていい場所なんてどこにもない」
異変を察した御蔵妻が駆け寄ってきて、俺の頭を膝の上に載せた。コップを傾けながら少しずつ水を飲ませてくれる。喉を冷たい感触が通っていく。
「この町もそうだ。居心地が悪い。なのに、どうしてあんたたちは、こんな生きる価値のない俺に、優しくしてくれるんだ」
「おい、タオルを濡らして絞ってきたぞ」
御蔵夫が冷たいタオルを額に当ててくる。そんなに慌てるならどうして飲ませたのだと文句を言ってやりたいのに、言葉はもう出てこなかった。
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