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そして、自分が何を口走ったのかまったく覚えていなかった。なにか余計なことを言わなかっただろうか。それが心配で、不安だった。
歯を食いしばりながらなんとか上体を起こす。
薄めの毛布をかけられていた。丁寧に畳んで脇に置く。
卓袱台は片づけられて、御蔵夫妻も隣で雑魚寝していた。御蔵夫はいびきをかいている。ふたりを起こさないように静かに立ちあがると水道でグラスを洗い、水を注いで一気に飲み干した。
夜の町は静寂に包まれていた。
港ではなく町中を歩いてみる。商店街は、夜というのもあってすべてシャッターが閉まっている。昼間もどれくらいの店が営業しているか定かではないが。
自動車が通ることもなければ人の気配もない。
眠っているのか死んでいるのか曖昧な世界。少し心地がよかった。
東京と違って街灯はまばらで、点滅しているものもあった。いずれも羽虫がたかっている。
あの灯りが生きる意味だとしたら、人間は羽虫だ。
意味を持たない俺は光に向かえない。なのに、どうしてまだ生きているんだろう。そして世界はどうしてこんな俺を殺してくれないのだろう。
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