52Hzのジオラマ

6/69
前へ
/69ページ
次へ
 煉瓦色をした係船柱の脇に花束が積まれていた。すっかり萎れてしまったものから、瑞々しく鮮やかなものまでさまざまだ。間違いなく犠牲者を悼むものだろう。  俺は目を閉じて、両手を合わせた。  そして膝をつくと写真を撮影する。撮れるものは何でも撮っておく。  第二の殺人はそこから5分ほど歩いた場所で起きたという。潮風で傷んだ掘っ立て小屋にも、同じように献花がされていた。同じように、俺は手を合わせて犠牲者の冥福を祈る。 「あんた、観光客かい?」  すると背後から声がした。振り向くと、50代ぐらいの髭を生やした、恰幅のいい男が立っていた。薄汚れたクリーム色の作業着に身を包んでいる。 「人間が死んだ場所を撮るなんて趣味が悪い」  少し訛った口調で不快感を露わにしてくる。  正義というジャーナリズムは、一般的に知らしめられるまではなかなか大衆には理解されにくいものだ。  男の言葉を肯定も否定もせずに、背を向ける。 「今にも罰が当たるぞ。おい、聞いてんのか?」  しかし男は近づいてきて、右肩を掴んで無理やり振り向かせようとしてくる。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加