52Hzのジオラマ

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「残念なことに銅像は戦争で失われてしまいました。金属はすべてお国に持って行かれてしまったからです。しかし、かつて、この町では不老不死を求めて人魚の血肉を食べていたのです。そして、次の奇祭では振る舞われるんです……」  若女将は微笑んでいたが、瞳の奥は暗く底がないようだった。 「人魚の肉を、干したものが」 *  内風呂はシャワーで済ませた。きちんと折りたたまれて糊のついている浴衣を適当に着る。木のような不思議な香りがしたが、洗剤由来だろうか。  鞄の中に入れたままだったペットボトル入りのミネラルウォーターはぬるくてまずかった。備えつけの冷蔵庫へ乱暴に突っ込む。代わりに小さな缶の緑茶が入っていたのでそれを一気に飲み干した。  スマートフォンを開く。  SNSでの、夜の日課。
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