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「どこへ行くの?」
「もう。帰らないと。明日からなんだ……」
隼との付き合いは長い。付き合う前から知っているから、もうかれこれ八年ぐらいになる。まっすぐで、言い出したら聞かないところとか、好きになったらすごい熱を上げて、猪突猛進にるところとか、好きだ!付き合ってくれ!って迫ってきて、それでいて、優しくて、尽くすタイプだから──
私にはわかってしまう。
コイツは言ったら聞かない奴なんだ!
「ごめん。勝手なわがまま言って。話はまた来週にしよう。もう帰って練習しないと」とか言って、出て行ってしまった。
何言ってるのよ。
ここが、あなたの帰る場所じゃない。
隼にとってはもう、私と過ごすこの部屋は、我が家ではないのだ。
平日の、神楽坂雅と過ごすアパートが自分のうちなんだ。
なんだか愛人に寝盗られたような、不思議な気分になった。
『明日からなんだ……』と言う、隼の言葉を思い出していた。
隼は明日。
Vちゅうばーとしてデビューする気だ。
あまりにも衝撃的かつ急展開なものだから、動揺が治まらない。
「はぁー!どうしたらいいんだー!!」
頭を抱えてしまう。
単身赴任中に、こんなこともあるかもしれないと覚悟はしていた。
何事もないに越したことはないけれど、夫婦なんて良いことも悪いこともいろいろあるもんだし、一緒に乗り越えていけるもんだ。って、そう漠然と思っていた。
けれど実際にはそうではなかった。
離婚したいと言われた時、私の心はひどく脆いものだと感じた。永遠の誓いなんていうのは、簡単にぐらつくものなんだと思い知った。
あいつなんかそもそも、そんな誓いなんてさっさと撤回しようとしている。
ひどすぎるよ。そんなの。
正直、そもそも撒いた種は私なんだ。だから仕方ないのかな。
動転していて、保守的な思考でうまく立ち回れなかった。
ああ。もう!なんでこんなことになるんだ!くそう!
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